米空軍、X-62 VISTAにファントム・ストライクを搭載へ
by 井上孝司 · マイナビニュースRTXは2025年12月19日に、同社レイセオン部門が手掛けている航空機搭載用AESA(Active Electronically Scanned Array)レーダー「ファントム・ストライク」を、米空軍向けに納入すると発表した。搭載する機体は、X-62 VISTA(Variable In-flight Simulation Test Aircraft)。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照
X-62とはどんな機体か
まず、X-62がどんな機体か、という話から始めなければ、今回の発表の意味は理解しづらいと思われる。そこで最初に、X-62Aの概要について。
X-62は、F-16Dブロック30(登録記号86-0048) “Peace Marble Il” を改造した米空軍テストパイロット学校(TPS : Test Pilot School)向けの試験用機で、以前はNF-16D VISTAと呼ばれていた。
“Variable In-flight Simulation”という名称の通り、さまざまな飛行特性を模擬・再現できる点が特徴で、それこそがTPSで求められる能力でもある。テストパイロットは多種多様な機体、ことに新規開発の機体を乗りこなす能力を身につけなければ仕事にならないから、こういう機体のニーズがある。
そこに新たに大改造を施して生み出したのがX-62。その大改造は米空軍研究所(AFRL : Air Force Research Laboratory)が実施したもので、スカイボーグ(Skyborg)計画での利用を企図した。具体的にいうと、自律制御システム(Skyborg Autonomy Control System)の試験が目的で、投じた改修費用は1,500万ドルとされる。
そして生み出されたX-62は、米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)が推進したACE(Air Combat Evolution)計画の一環として、コンピュータ・シミュレーションによる格闘戦を実機に反映・実施する用途に充てられた。そのため、X-62は「人工知能(AI : Artificial Intelligence)エージェントを初めて組み込んだ戦術機」といわれている。
米空軍は2023年7月25日にフロリダ州のエグリン試験施設で、CCA(Collaborative Combat Aircraft)のテストベッドであるクラトス製XQ-58ヴァルキリーを用いて、AIエージェントによる最初のフライトを実施した。そのXQ-58で使用するAIエージェントの熟成に、実はX-62が一役買っている。
有人機でAIエージェントを動作させれば、もし何かマズいことが起きても、パイロットが制御を取り戻して機体を安全に着陸させることができる。しかし無人機ではそれができない。だから、最終的に無人機に搭載するシステムでも、開発・熟成の課程で有人機を使用する必然性がある。
つまり、X-62がCCA開発の一翼を担っているところが、後で出てくる話につながってくる。
F-16用のレーダー
さて。X-62のベースはF-16Dだが、そのF-16は当初、「有視界の格闘戦に特化したシンプルな機体」ということで、測距レーダーだけを搭載することになっていた。しかし実用機に仕上げる過程で、ちゃんとした射撃管制レーダーを載せて全天候戦闘能力を持たせることになった。
そこでまず、ウェスティングハウス製の機械走査式パルス・ドップラー・レーダー、AN/APG-66を搭載した(これの派生型を、航空自衛隊がF-4EJ改に載せていたから、日本とも縁があるレーダーだ)。続いて、改良型のAN/APG-68が登場したが、これも機械走査式である。
その後、AESAレーダーを搭載する話が出た。まず、アラブ首長国連邦向けのF-16E/Fデザートファルコン(ブロック60)でノースロップ・グラマン製のAN/APG-80を載せたが、これはこのモデルだけで終わってしまった。
米空軍のF-16C/D、それと最新型のF-16V(ブロック70/72)などで載せるAESAレーダーについては別途コンペティションが行われて、レイセオンのAN/APG-84 RACR(Raytheon Advanced Combat Radar)と、ノースロップ・グラマンのAN/APG-83 SABR(Scalable Agile Beam Radar)が競合、後者の採用が決まって導入が進んでいる。
ファントム・ストライク搭載の狙いは?
CCAにはパイロットが乗っていないから、当然ながらMk.Iアイボール(すなわち人間の目玉)で周囲の状況を把握することはできない。だから、センサーとしてなんらかのレーダーは搭載しなければならない。
それなら、CCAのテストベッドを務めているX-62にAESAレーダーを載せるにしても、同じSABRでいいのでは? と思いそうになる。機材の共通化につながって合理的だし、もともとF-16用に開発したレーダーだから、フィッティングに何も問題はなくポン付けできる。
しかしそれをせず、あえてファントム・ストライクを載せる理由とは。
それはおそらく、X-62がCCAのテストベッドだからである。ファントム・ストライクは小型軽量、かつ空冷化して構造をシンプルにまとめたレーダーだ。たぶん、SABRよりもコンパクトかつ安価であるし(RTXでは「典型的な射撃管制レーダーと比べて、ほぼ半額」といっている)、その分だけ機体に載せる際の物理的・経済的負担を低減できる。
つまりCCA向きであるし、実際、レイセオンでもそういう狙いを持ってファントム・ストライクを開発している。最初に搭載する実用機は、ポーランド向けに韓国のKAIが製造するFA-50PLだが。
米空軍がCCAにファントム・ストライクを載せる意図を持っているのであれば、CCAテストベッドのX-62にも同じレーダーを載せる方が合理的、という話に行き着く。テストベッドと実用版CCAで異なるレーダーを載せていたのでは、試験の際の条件設定が違ってしまう。
おそらくはそういう理由が背景にあるのではないかと睨んでいるのだが、真相やいかに。RTXのプレスリリースでは、「X-62にファントム・ストライクを載せます」という以上のことは何もいっていないのだが。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。